Matrice 400:産業ドローンの次世代へ──Matrice 350 RTKからの進化点を徹底解説

 


DJIの産業用ドローンプラットフォームは、これまでMatrice 300 RTKやMatrice 350 RTKといった堅牢かつ高性能な機体を通じて、建設、測量、インフラ点検、災害対応といった分野に大きなインパクトを与えてきました。そして2025年、DJIはこれらの実績を踏まえて、さらに進化した次世代機体「Matrice 400」を発表しました。

本稿では、Matrice 350 RTK(以下、M350)を基準とし、Matrice 400(以下、M400)で何がどのように進化したのかを、以下の観点から詳細に比較・分析します。


1. 機体性能の進化

飛行時間の向上

M350は最大飛行時間が55分でしたが、M400は最大59分とさらに延長されています。これは、大型バッテリーの最適化とペイロード重量に応じた電力効率の向上によるものです。現場での一回の飛行ごとに収集できるデータ量が増加し、効率性が向上しています。

ペイロード対応力の大幅拡張

M350が最大2.7kgのペイロード対応だったのに対し、M400では最大6kgまで搭載可能となりました。これにより、LiDARや大型マルチセンサーカメラといった高重量ペイロードにも対応可能です。特に電力会社や大規模インフラの点検業務では、この搭載能力の強化が大きな武器となります。


2. センサー・認識能力の革新

回転型LiDARとミリ波レーダーの搭載

M400では、回転型LiDARセンサーミリ波レーダーを組み合わせた障害物認識システムが新たに採用されています。従来のM350では6方向の視覚センサーを利用した障害物回避がメインでしたが、M400ではこれに加え、電線のような細く視認しづらい障害物も検出可能となりました。

雨天・低視界環境での飛行精度向上

ミリ波レーダーにより、霧や雨といった視界不良時でも飛行安全性が確保されており、M350では難しかった気象条件下でのミッション遂行も可能になっています。これは特に災害対応や風力発電設備の点検などにおいて有用です。


3. 通信と映像伝送の強化

M400では新たにO4 Enterprise伝送システムを搭載し、最大20kmの安定した映像伝送を実現しました(※障害物のない環境下での理論値)。加えて、中継ドローンによるAirborne Relay Video Transmissionに対応し、障害物の多い山間部や都市部でも途切れのない通信が可能です。

これにより、M350で課題とされていた「中継ポイントの設置」や「手動での通信切替」といったオペレーションの煩雑さが大きく軽減されました。


4. 自動化機能の洗練と高度化

ARによる飛行ルートの視覚化

M400はAR(拡張現実)技術を用いたルート投影機能を搭載しています。これにより、パイロットは飛行ルートを直感的に視認でき、ミッションの精度と安全性が向上します。

自律航行の精密化

M350でもWaypointやスマートトラッキングといった機能はありましたが、M400ではこれらのAI補正が強化され、ターゲットの追尾精度、障害物回避精度が向上。加えて、船上での自動離着陸にも対応しており、海洋インフラの点検や救助活動にも対応可能です。


5. オペレーション効率とサポート機能の差

バッテリー運用面での違い

M350はホットスワップ可能なTB65インテリジェントバッテリーを採用し、BS65ステーションで充電管理を行います。M400ではこのシステムが一部刷新されており、バッテリー容量が拡張された一方で、ホットスワップ機能の可否や互換性に一部違いがあります。

M400は長時間の飛行を前提に設計されており、連続作業性よりも「一度のミッションにすべてを注ぐ」運用思想が濃く反映されています。

メンテナンス性とモジュール化の進展

M400はセンサーモジュール、通信モジュール、電源部などがよりモジュール化されており、ユニット単位での交換や点検が可能です。これにより、ダウンタイムの削減と迅速な保守が可能となっています。


6. 適用分野の変化と広がり

分野 M350 RTK M400
インフラ点検 ◎ 汎用的 ◎◎ 高精度・自動化重視
災害対応 ◯ 機動性重視 ◎ 通信安定性・自動航行
電力施設 ◎ 実績多数 ◎◎ ミリ波・AR対応で進化
海洋プラットフォーム △ 限定的 ◎ 船上離着陸対応
高高度測量 ◎ GNSS精度あり ◎◎ LiDAR追加で強化

7. 総括:M400は“特化型ハイエンド”、M350は“万能型ミッドレンジ”

M350は「多様な現場での即戦力」として非常にバランスの取れた機体でした。一方で、M400は特定の高度業務(例:電力・海上インフラ・災害即応)に最適化された、特化型フラッグシップモデルです。

進化点をまとめると:

進化点カテゴリ 進化内容(M350 → M400)
飛行性能 飛行時間+4分、ペイロード倍増(2.7kg → 6kg)
障害物回避 視覚6方向 → LiDAR+ミリ波による精密検知
通信性能 O3 → O4 Enterprise、映像中継対応
自動化機能 標準自動航行 → AR投影、船上運用対応
運用設計 長時間型バッテリーに最適化、モジュール保守

8. 最後に

M400は「より複雑で危険、そして精度が求められる業務」を想定して作られたハイエンド機です。すでにM350を導入している事業者にとっては、M400は置き換えではなく“業務の拡張と深化”のための選択肢といえるでしょう。

DJIの産業用ドローンは単なる飛行機械ではなく、今や“空飛ぶAIデバイス”です。その進化を最前線で活用するかどうかが、今後の業務効率と安全性の差を生み出す鍵となるでしょう。


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